食事の〝自然法則″

栄養のバランスより、食事の〝自然法則″を優先させる
あるとき、地方の開業医に健康の秘訣を聞いたことがあります。その先生はもう九○歳に手の届こうという年ですが、まだかくしゃくとしてひじょうにお元気です。先生の日常は、毎日病院へ出て午前中に外来患者を数人診察します。これは仕事として頭を使うし、適度の緊張もあって自分のからだにはよいといいます。やはりいくつになっても、自分の仕事をもっていることはたいせつです。
そして息子さんが院長をされていることもあり、午後は診療しません。自宅にもどり、粘土をひねって壷や皿を作っています。趣味の陶芸にいそしんでいるのだそうです。昼までは適度に緊張し、午後は自分の好きなことをしてリラックスする。一日の生活にリズムとメリハリがあり、きわめて理想的な日常生活といえるでしょう。
また食事で気をつけていることは、外食をさけてかならず家で食べるようにしているということでした。というのは、そのときどきの自分の好みに忠実に食べられるからだといいます。たしかに外食ではメニューもかぎられ、また場合によっては連れの人と注文を合わせる必要もあります。出てきたものの量が多くても残すわけにいかず、食べたいものを自分に合った量だけ食べるというわけにはなかなかいきません。そういう不自然さをさけるということです。じつは以前、中国の高齢の漢方医にやはり健康の秘訣を聞いたことがありますが、この先生とほとんど同じ日常生活で驚いたものです。
またこれは伝え聞いた話です。洋画家の梅原龍三郎画伯といえば、日本の近代絵画史上に大きな業績を残した人ですが、画伯は九七歳まで天寿をまっとうしました。生前、自分の健康法について、こう語っていたそうです。「食事は腹が空いたら好きなものを九分目に食べること。昼寝をすること。床につくときに、寝酒を少々飲んでぐっすり寝ること」。亡くなる直前まで絵筆をとって仕事をしていたそうですから、漢方の先生と同じく適度の緊張とリラックスという日常のリズム、そして自然体の食生活という、やほり理にかなった生活ぶりであったことがわかります。
長生きした人は、まずほとんど例外なく自然治癒力が高いのです。そしてその自然治癒力は、からだの欲するところにしたがって、自然に食べるということで高まるのです。お腹がいっぱいなのに、ふだん食べられないものだからもうちょっと食べようとか、きのうおとといと肉だったのに、今日も付き合いで焼肉を食べなきゃならないハメになったとかいうのでは、けっして自然体の食生活とほいえません。
よく栄養のバランスということがいわれます。それもたいせつなことではありますが、まずからだがどういうサインを出しているかに注意を払うべきです。「もういらない」「こんどは野菜が食べたい」というシグナルが出ていたら、それに忠実に対処することです。〝人間には自分の生命を保とうとする自然法則がある″ のです。その自然法則にそって生活していくことこそ、自然治癒力を高める最善の道なのです。